弓について弦楽器本体と同じく楽弓も音色・音量にまで大きな影響をもたらします。 この様に弦楽器とはそれに関わる全ての部分が共鳴・振動し最終的な音色の決定要因となりますので、どの部分にも的確で高品質な素材を用いなければ楽器として最高のパフォーマンスを引き出すことは出来ません。その中でも弓は大きな位置を占めます。単に音という観念のみならず演奏家にとってはこの弓ひとつで曲の完成度まで変わってきますので、楽器本体と同じく弓選びにはしっかりと時間をかけるべきでしょう。 ストラディヴァリやグァルネリの時代は半円形の弧を上方にえがく弓状のスティックに馬毛を張り演奏していましたが徐々にパワーとレスポンスが求められる様になりアーチも低く設計され1700年代後半、アーチはついに逆向きに反るようになりました。このおかげで弓はこれまでより遥かに強い張りを手にする事ができ、激しいパッセージでも音量を落とさずに演奏する事を可能にしてゆきます。 楽器本体と同じく、より大きく・より遠くまで音色を届かせる必要性が出てきたのも この頃です、弦楽器及び弓にとってバロックからモダンへの大きな変革期でもありました。 楽弓はブラジル原産の密度が高く硬く赤い材木、ペルナンブコ材(Pernambuco)から製作されます。 この材木はブラジルの東部大西洋岸原産でこの地域の地名 Pernambuco州(州都はRecife)が名前の由来。学名はCaesalpinia echinata、マメ科の植物、古くはブラジリン(brazilin)という赤色の色素を得る染料として利用されてきました。 このペルナンブコは木材として驚くほどの強度を持ちます、これは微細な木繊維による高密度性とこの繊維の複雑で強固な全方向への絡み合いによってもたらされるものです、よって強度のみならず飛躍した弾性も特質すべき特長です。強さと弾力性そして高い音波伝播速度を持ち合わせたペルナンブコ材、これこそ楽弓にふさわしいこの上ない極上の木材といえましょう。 しかし楽弓における最上の素材ペルナンブコ材は過度の伐採により絶滅の恐れがあるとしてIUCN(国際自然保護連合)に絶滅危惧種として登録、伐採も制限され現在では上質のペルナンブコ材の入手は難しくなってきております。よって過去に上質ペルナンブコ材で製作された弓は今後さらに貴重になって行く事でしょう。 弓に張る馬毛はまさに職人さんの腕の見せ所、仕事の質により毛替後の弓は弾きやすくも、その逆にもなります。 程良い長さと毛の量で均等にクセを出す事なく仕上げられた弓と、そうでない弓とでは弾き心地や音色・音量までにも大きく影響しますので、毛替は重要です。 また馬毛の種類も多数出ております、以前はモンゴル産の馬毛がメインでしたが現在は数種類、毛替の重要度を理解する工房では10種類近くもの馬毛を用意するようになりました。 それぞれのクオリティーが確立している限り選択肢が多い事は演奏家にとって望ましい事です、ご自分の演奏、そして弓にあった馬毛をお選びになり楽器の力を十分に引き出してあげてください。 |
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